【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 クラークルイス伯爵邸に戻るとお父様はまだ帰宅しておらず、なぜかそこにはヒューバートの弟、第三王子のセドリックが待ちかまえていた。

 わたしよりも十歳年下のセドリックは、ぽやぽやした柔らかい金髪に、明るい青い目をした可愛らしい男の子である。

「アーリア、お帰りなさい」

「セドリック殿下……? なぜここに?」

 玄関ホールに控えていた伯爵家の執事に軽く視線をやる。
 執事はそっと首を振った。セドリックの来訪は予定していたものではないらしい。

 セドリックはじっとわたしを見つめた。

「アーリアに会いたくて」

 まだ声変わりもしていないボーイソプラノに、少し上目遣いに探るような、いたわるような視線。

 セドリックとわたしはわりと仲が良かった。王子妃教育のために城に行くと、廊下やテラスでちょくちょく遭遇するのだ。

「セドリック殿下……もしかして今夜のことをご存知でいらしたのですか?」

 セドリックは気まずそうにうつむいた。

「ごめんなさい。兄があの女と話しているのを聞いてしまいました」

 ヒューバート、なんてうかつな……!
 婚約破棄なんてデリケートな話を、人に聞かれる可能性のある場所でするなんて。

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