【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 そんなセドリックに、エドワードが穏やかな声をかけた。

「殿下、よろしければ私たちと食堂へいらっしゃいませんか」

「教員用の食堂ですよね。今日は遠慮しておきます。友人たちと食事をする約束ですので」

「そうですか。では、次の機会に。妃殿下、昼休憩が過ぎてしまいます。そろそろ」

「は、はい。セドリック様、またのちほど……」

 わたしが挨拶をすると、セドリックは片手を上げただけで、無言のまま去ってしまった。

 もしかして、何か察してしまったのかしら……。
 理事長室でのあれは単なる事故で、浮気をしたわけでもないのに後ろめたさが襲ってくる。

 その時、明るいオレンジ色の髪の女子生徒がセドリックたちを追って、小走りで駆けていった。セドリックよりは年上に見えるが、華奢で可憐な雰囲気の少女だ。

 少女はセドリックに話しかけると、その取りまきの集団の中にまざってしまい、姿が見えなくなった。黒い制服を来た少年たちの中に、溶けこむように入っていったオレンジ色の髪……。

 どうということはない光景なのに、なぜかいやな予感がした。


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