【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 剣の訓練場と広い馬場の横に、ほかの建物と比べるとそれほど大きくない訓練準備棟がある。
 石造りの建物の中には、貴族の子弟が運動の準備をするための更衣室や浴室、着替えや雑事を手伝う従者の控え室などが並んでいる。

 その訓練準備棟の一角に待合室があった。待合室といっても、王族や上級貴族専用の豪華な部屋だ。

「セドリック殿下に呼ばれてまいりました。こちらで待つようにとの言伝だったのですが、入ってもよろしいかしら」

「はっ、どうぞお入りください」

 入口で警護をしている騎士に挨拶し、中に入る。
 待合室には広めのテラスがあり、わたしはその端の椅子に座ってセドリックを待った。穏やかな陽気で、そよ風が気持ちいい。

 もう着替え終わった男子生徒が何人か談笑していたけれど、テーブルの間は軽くパーティションで仕切られており、あまり視線が気にならないのもなかなか快適だ。

 だけど、訓練準備棟は基本的に殿方用の施設。女子は学園で汗をかくような授業は受けないので、この棟には普通女性は入れない。
 警護の騎士にも誰何されずに、スムーズに入室してしまったけど、大丈夫だったのかしら……。

「…………?」

 その時、かすかに若い女性の声がした。
 わたし以外にいるはずのない、女性の声。

「……ぁっ、……様っ、おねが……」

 パーティションの向こうから聞こえてくる、その声は、

「泣き声……?」

 まさか。
 でも、耳をすませると、やっぱり泣いているような気がする。

< 95 / 113 >

この作品をシェア

pagetop