聖女じゃないと見捨てておいて今さら助けてとか無理なので、どうぞ放っておいてください!
0章. プロローグ                           



「先輩。私先輩のこと忘れません!」

 目を覚ましたら私は魔法陣の上にいた。
 古代ギリシャの神殿っぽい柱に、ステンドグラスのある大聖堂みたいな場所。
 そこに描かれた魔法陣と私をぐるりと取り囲むような格好で大勢の神官の格好をした人たちに見下ろされている。

 まるで、ファンタジー小説に出てくるワンシーンのような光景だ。

 その神官たちに囲まれて立っているのは見覚えのあるふたり。ふわふわ金髪でかわいい顔立ちの女性三(み)輪(わ)キリカ。
 そして黒髪で柔和な顔立ちをしている長身男性は、同じ会社の社員で私の婚約者でもあった杉並カズヤだった。

 キリカは私の会社の後輩で、よく彼女のミスをカバーしていたのだけれど、なぜこんなことになっているのだろう?

 ──会社の行事でバーベキューをするはずが、キャンプ場でカズヤとキリカが浮気をしていて、会社の人を巻き込んで大騒ぎになってしまった。
 その場にいた一同でカズヤとキリカを問いつめると『ごめん。キリカを好きになっちゃったから婚約破棄で』と、やけになったのかカズヤが一方的に婚約破棄してきたのである。
 そしていきなり、カズヤとキリカの背後に大きな黒い渦が現れて、風圧を感じた途端、私まで気を失った。そして気がついたら魔法陣の上に倒れていて、取り囲まれていた。

 まるでキリカを私から守るように神官たちがキリカの脇を固め、その状況に気が大きくなったのかやたら上から目線でキリカに言われたのである──。

「あ、あのここは? わ、忘れませんってどういうこと?」

 私がわけがわからなくて聞き返す。

 こんなわけのわからない状態で、お別れ宣言とかされても困る。
 ちゃんと状況を説明してほしい。この人たちは? いったいどういう状況なの?
 ひょっとして、浮気現場から全部どっきりなのかと疑ってしまうほど、非現実的な状況に、私は動くことができなかった。

「君はダルデム聖王国の聖女召喚に間違ってついてきてしまった異分子だ。
 異界の女性をふたり呼べば片方に災いが起きると聞く。
 聖女様になにかあったら困る。申し訳ないが魔の森に転移してもらおう」

 金髪に精悍な顔立ちの、豪華な神官服を着た初老の男性がそう言うと、ほかの神官たちが祈りだした。

「お待ちください。
 職もスキルもない異世界人の彼女があんな魔の森などにひとり放り出されれば、助かりません。
 こちらの間違いで召喚してしまったものを、そのような文献も残っていない伝承を理由に排除するのは、理にかないません。彼女はこちらで保護すべきです」

 ほかの神官たちを止めるかのように、若い神官が私と大勢の神官の間に割って入る。
 年は二十代後半くらい、茶色の短い髪に整った顔立ちの男性だ。

「お前も知っているだろう、異世界人の女性を呼べば片方に災いが降りかかるという伝承がある。
 それが聖女様だった場合問題だ。
 とくにこの女は、ステータスを見たところ職なしで、無能だ。こちらに残してもなんの益もない」

「益があるかないかではありません。
 人道的な問題だと申し上げているのです。
 彼女が聖女召喚に巻き込まれたのはこちらの落ち度。
 それをこちらの都合で一方的に見捨てるなど。せめてもとの世界に戻す手立てを!」

 目の前でくり広げられてる口論を私はただ固まって見ていた。
 本当になにがどうなっているのだろう。
 これはよくファンタジー小説や漫画とかでいう異世界召喚とかいうやつなのかな?

 よく電車での通勤時の暇つぶしに見ていた気がする。
 カズヤの方に視線を移すと、申し訳なさそうに視線を逸らす。
 うれしそうにニコニコしているキリカに、黙ってうつむくカズヤ。

 本当に意味がわからない。初老の神官の方が手を上げた途端。

 ──ザシュ。

 抗議していた神官が私の目の前で、剣のようなもので上半身を切られた。

 ──え?

 その神官の体がそのままぐらりと私の方に倒れ込み、ぱぁぁぁぁっと魔法陣が光りだす。本当に意味がわからなくてすがるようにキリカとカズヤに目を向ければ……キリカはうれしそうに笑っていた。

(バイバイ先輩)

 そう聞こえたような気がした。

 な、なにがいったいどうなってるのぉぉぉぉぉぉぉ!?

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