ときめきの香りは貴方ですか？
隣の男性に聞かれないように、息を吐くくらいの音で面接の練習をしていた。

「今から面接ですか？」
しばらくしてから、隣の男性が私に声をかけてきた。
「あっ、はい・・・」
「緊張するね。どんなこと言うか、練習してるの？」
「はい・・・」
「決まり文句みたいな？」
「そうです」

男性に声をかけられるとは思ってもいなかったのと、騒音で聞こえていないと思ってたから、恥ずかしさで一言一言返すのがやっとだった。

「・・・パンフレット、結構読みこなしてるね」
「どうしても入りたい会社で・・・」
「あれ？・・・いやなんでもない。そうか、じゃあ、凄く緊張してるよね。ごめんね、話しかけて」
「いえ、ただ練習しないと不安でして」
「じゃあさ、自分の気持ち、そのまま話すといいよ。どうしても入りたい理由。在り来たりな言葉よりもその方がよっぽど伝わるから」
「でも、大したことではないので・・・」
「君にとっては人生を決めるきっかけになったんでしょ？じゃあ、大したことなんだよ」

その男性の言葉に、きっかけとなったイベントでの感動を思い出した。
そうだ、あれがきっかけだった。

その時、目的地に着くアナウンスが流れ、もうバスが停まるところだった。
慌ててパンフレットを鞄に入れると男性もそこで降りるようで、立ち上がった。

「私、その会社の従業員なんですけど、いい会社ですよ。また会えるといいですね」
そう言って先に降りて行った。
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