甘い毒に溺れ堕ちて
口元を覆いながらにんまりと口角を上げていると、向かい側から羨ましそうに呟く声が聞こえた。



「藍は予定なし?」

「いや。大掃除の予定が」

「大掃除!? 今の時期に!?」

「梅雨が来る前に綺麗にしようって話になって。1日に1箇所ずつすることになったから、昨日からやってるんだよね」



遠い目をして、ははは……と弱々しく笑っている。


だから昨日、ちょっと元気なさげだったんだ。

そして今日も、帰ったらお掃除が待っている。


重労働かは広さによるけれど、みんなが遊びに行く中でたった1人家のお手伝いに駆り出されるのは、非常に気の毒だ。



「良かったら、何かお土産買ってこようか?」

「いいの……?」

「当たり前だろ! そんな空元気丸出しの顔で笑われたら」

「そうだよ! 手ぶらで帰れないよぉ」



藍くんの肩に夏目くんがポンと手を置いた。茉耶も同調している。



「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「了解。何が欲しい? 食べ物系? 雑貨系?」

「お菓子。できれば柔らかい物がいいな」



柔らかいお菓子、と心の中で復唱して、脳内にメモする。


駄菓子1個も買えないくらいお財布の中はすっからかんだけど、明日になればお小遣いもらえるし。

1人あたり500円、多くて600円ぐらいに収めれば、ギリギリ今月は乗り切れる、はず。


食事会を終えて教室に戻る間も、3人で藍くんを励ましたのだった。
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