甘い毒に溺れ堕ちて
「ただいまー」



リビングのドアが開いて、父が帰ってきた。



「おおっ、帰ってたんだ」

「おかえり虎珀(こはく)! あなたの分も作ったのよ!」



あ、やっぱり。


一体なんのことやらとまばたきする父の頭に、彼女が新聞紙の兜をかぶせる。

父の兜にも同じ場所に黒いペンで、『こはく』と達筆な文字で名前が書かれていた。



「どう? なかなか綺麗に折れてるでしょ」

「まあ……。俺もうそんな歳じゃないんだけどな……」



なんて苦笑いを浮かべつつも、かぶったままちゃぶ台に弁当を並べている。


いくつになっても息子は息子。もう大人だからとスルーされるよりも、多少気恥ずかしさはあっても祝ってもらえるほうがずっと嬉しい。


……この様子じゃ、忘れてるだろうな。結婚から15年以上経ってるし。今もこの家のどこかで寂しく眠っているのだろう。


暗所にしまわれている五月人形とこいのぼりに思いを馳せながら、お茶を入れにキッチンへ向かった。
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