甘い毒に溺れ堕ちて
倒れまいとハンドルグリップを握るものの、徐々に歩みは遅く、歩幅も小さくなっていく。


あぁもう、こんな時に限って。どうして幼稚園で済ませなかったの。


晴日を叱る気力も、水筒に手を伸ばす体力も残っておらず。

その場でうずくまりそうになったその時──スマホがブーッブーッと振動し始めた。


力を振り絞ってポケットから取り出し、画面をスワイプさせて耳に当てる。



「……もしもし」

【もしもし? ごめんね、忙しい時に】

「ううん。どうしたの?」

【なんか間違えて、真彩ちゃんの教科書持って帰っちゃったみたいで】



通話口から藍くんの声に交じって、コンビニの入店音が聞こえた。

小腹を満たしに立ち寄って、会計の際に気づいた、ってところだろうか。



【で、もし時間大丈夫なら、届けに行きたいんだけど……】

「うん」

【今、どのへんにいる?】

「今……」



目印になりそうな建物がないか、あたりを見回す。

しかし、雲間から降り注ぐ強い日差しが、容赦なく私から体力を奪っていって……。



【おーい、聞こえてる?】

「……う、ん」



頑張って口を動かすけれど、声が詰まって、思うように出てこない。


声が、だんだん遠のいていく。

視界も、徐々にぼやけて……。



【真彩ちゃん? 大丈夫ですかー?】

「……たす、けて」



蚊の鳴く声量で呟いた直後、全身の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
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