甘い毒に溺れ堕ちて
玄関の引き戸が、わずかに開いている。

たたきを見てみたら、つい先ほどまで綺麗に揃えられていた彼女の靴が忽然と消えていた。



「華子さっ……華子さんっ! 華子さんっ!!」



サンダルを履いて外に飛び出す。


駐車場、庭、家の周辺。


いない。どこにもいない。人影すらも見当たらない。


全身から血の気が引いていく。

不安の音を立てていた心臓が、不吉な音色へと変わっていく。


顔が青ざめていくのを感じながら、急いで家の中に戻った。

作業台に置いていたスマホを取り、震える手で電話のアイコンをタップする。



【──はい。もしもし】



幸いにも残業中ではなかったようで、スリーコール目で出てくれた。



【どうした?】

「っ……あ、ちゃ、が……」

【なんだ? もう少し大きな声で言ってくれ】

「……あ、ちゃんが、い……くな……っ」



のどから声を絞り出すも、途切れ途切れになってしまう。

1度目を閉じ、胸に手を当てて、乱れた呼吸を落ち着かせる。



【何かあったのか?】

「ばあ、ちゃんが、いなくなった……っ」
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