甘い毒に溺れ堕ちて





「見て虎珀っ! 桜よ!」

「え、どこどこ」

「あそこ! 郵便局の後ろ!」



卒業式から1週間が経った平日の午前10時。

スマホをいじる手を止めて、助手席に座る祖母の指先をたどる。



「あぁ〜……見えなくなっちゃった」

「どれくらい咲いてた?」

「けっこう咲いてたわよ。八分咲きくらいかしら」

「そんなに!? それ桜じゃなくて梅じゃないの? 早咲きの品種ならあれだけど、まだ少し早いでしょ」



視線を前方に戻したら、バックミラー越しに父と目が合った。



「今の時期は何が咲いてる?」

「梅と椿と木蓮、ですかね」



検索欄にキーワードを入れ、出てきた中から代表的な名前を複数挙げた。



「今のところ、桜はまだ開花情報出てないので、多分梅か木蓮だと思います」

「ほらぁ。桜はもうちょっと先だよ」

「あらまぁ。それは申し訳なかったわねぇ」
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