その海は、どこまでも碧かった。
「で、海は、そいつと付き合うの?」
「碧くん、付き合うって、なに?」
「え、それオレに聞く?」
「だって
碧くんしか相談できる人いないもん」
できれば
オレ以外の誰かに相談してほしい
聞いたのはオレだけど
聞かなかったことにしたいぐらい
「だから、オレ付き合ったことないって…
なんの参考にもならねーよ」
「じゃあ、碧くんは
好きな人と付き合ったら
何したいの?」
「何…って…
なんだろね…
…
デートしたり?」
その場しのぎで適当に答えた
「デートって?」
「定番は映画行ったり?
買い物したり?
で、手を繋いで…」
「それって、私と碧くんしてるよね?」
「うん…してるね…」
「でも、付き合ってないよね?」
「付き合ってないね」
「よく映画一緒に行くし
昔から手も繋いでたよ」
「うん、だね…」
「まだたまに一緒に寝るしね」
「それは
オマエが勝手にオレのベッドに寝てんだろ」
「最近お風呂は一緒じゃないけど…」
「一緒だったらヤバいだろ」
「私は、平気かも…
碧くんがダメって言うから…」
「うん、ダメ
オレの前で着替えるのもやめてほしい」
「なんで?」
「だって、海に告った男からしてみたら
嫌だと思うよ
オレだったら嫌だけど…
好きな子が他の男の前で裸になるとか…」
「碧くん、今想像した?
碧くんの好きな女の子が裸になるところ」
「想像…してねーわ!」
「あ、絶対した」
「うるせー、海!ウザ!」
想像しなくてもわかるわ
よくオレの前で着替えてるから
ブラのサイズ知ってるし…
ヤバ…
オレ
「で、好きなの?その男のこと」
「んー…楽しいよ!
あと、優しい」
「へー…じゃあ、いんじゃん」
何がいんだよ
ダメ!って言えよ、オレ
海が誰かと付き合うなんて
海が誰かの彼女になるなんて
嫌だよ
「でも、それって、碧くんも同じだよ
碧くんも楽しくて優しい」
海
かわいすぎる
泣きそう
オレ
「海、そいつとキスできる?
ハイ、想像して!」
「碧くん
碧くんも好きな女の子とキスするところ
想像したりしてるの?」
「し、してるわけ…」
してるわ…
まぁ、オレも男だし…
たまに無性に思う
海にキスしたいなって
「ふーん…」
なに?その目
心の中見える?
「そいつもしてんじゃない?
海のこと好きなヤツも
海とキスするの絶対想像してるよ」
男ってそういう生き物だよ
20歳でも高校生も
たぶん永遠に
「キス…か…」
「付き合うって
そーゆーことしたいからじゃね?
友達だとできないこと」
「ふーん…」
海が遠い目をした
「海、目閉じてみて…
想像して、キスするところ」
「うん…」
海が目を閉じた
海の目蓋の裏には誰がいる?
きっと
告白した同じクラスの男子が映ってる
へー…海
キスの時こんな顔するんだ
目を閉じた海に見惚れた
海が遠くに行ってしまう気がした
オレはぜんぜん大人になってなくて
大人になろうとしてるのは
海なのかも
オレはきっといつまでも
ガキみたいに
海を想ってる