ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「あら?ここは関係者しか入れません。
御用はどちらかしら?ご案内します」


そこへ、スーツ姿の若くて綺麗な女性が笑顔で私に声をかけてきた。
誰だろう?
その女性が首からかけている身分証を見て、思わず釘付けになる。

「事務部長…さん?」

どう見ても二十代にしか見えない。知的な美人。それなのに、事務部長なの?信じられない。若く見えるだけ?でも、後ろに秘書のような女性を連れているところを見るとやっぱり偉い人なのかな。

「花音、その方、ドクターよ」

事務部長の後ろに控えていた秘書と思われる女性が、手元のタブレットを見て声を上げた。

「え、そうなの?」

秘書が事務部長に差し出したタブレット端末には恐らく私の情報が出ているのだろう。事務部長の顔はみるみる赤くなっていく。


「お気遣い、ありがとうございます。
私は、小児科医の二葉真菜(ふたばまな)と申します。白衣着てないと医師に見えないですよね?」

私は、白衣を脱いだ時に外した身分証をポケットから出して首に掛けた。

「え、あ、すみません!
私は事務部長の一条花音(いちじょうかのん)と申します。ドクターに大変失礼しました」

事務部長は、深々と頭を下げてくれた。すべての仕草に好感がもてる。ステキな人だな。

「大丈夫です、慣れてますから。では、仕事に戻りますので」



私は、光英大学病院の小児科に勤めている。やっと後期臨床研修期間が終わり、一人前になれたところだ。

次の誕生日で30歳。それなのに童顔で背も低く、いつも年齢よりずっと若く見られてしまうのは悩み。年齢相応の大人の女性には、まず見られない。学生に間違われることもある。医師に見えないことには慣れていた。





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