リリィ・ホワイトの愛が目覚めるまでの日記
 リリィが去ったあの日、ホワイト家の玄関ポーチでジェイに言われた言葉は今も覚えている。

『ロナウド、最後に君と話がしたかったんだ』

『ジェイ……』

『街の外れに貧民街があるとする。 たまたま迷い込んだそこに、今にも死にそうな幼い兄妹が倒れているのを発見した。 君は買ったばかりのパンを持っているが、それを差し出すのは正しい選択か否か。 君はどう思う?』

『その迷い込んだ俺の立場は?』

『そうだな、宰相という事にでもしようか』

『ならば、その選択は間違いだ』

『ほぉ、それはどうして?』

『君と俺は共に学校で学んだはずだ。 国のあり様、政治、正しい事の行い方、様々に。 だから人を導くにも行うにも何が正しいかは自ずと知っている』

『君は賢い善人だね』

『例えそこで助けたとしても、それで国は救われない。 パンを差し出すより連れ帰り、兄妹を養子にして育てる方が幸せだ』

『なるほどね』

『君は違うのか?』

『俺は迷いなくパンを食べさせるよ』
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