お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
私は急ぎ足で向かい側の水着が売っているショップに移動し、最初に目にとまったものを手に取る。
航太郎さん…何着ても似合うと思うけど、やっぱりシンプルなのがいいかな。
私は基本決断が早い。
それに今は航太郎さんにバレないようにあれこれ悩んでいる暇は無いので、上下セットのスイムウェアを購入することにした。
黒地でサイドに軽くヤシの葉っぱみたいな模様が施されているものだ。

レジを通してショップを出ると、航太郎さんに気づかれている様子はない。
ほっと一安心して、彼の元へ戻ろうとした時だ。
後ろから肩を叩かれた。
反射的に振り返ると、そこには見知らぬ男性がふたり。
何事だろうと戸惑っていると、そのうちの一人が口を開く。

「お姉ちゃん、ひとり?」

「えっ? えっと…」

どうしよう。本当は航太郎さんと一緒だけど、今彼は近くにいないし、何よりどう言えばいいの?
一応夫婦ってことにはなっているけれど、婚姻届は出ていないいわば偽装結婚状態だ。
うーんと考えていると、どうやら彼らは私の答えなどそこまで気にしていないようだった。

「ひとりなら、俺らと一緒に遊ばない? 部屋取ってるんだよね、エグゼクティブだよ。広いよ〜?」

えぐ……? 聞き馴染みのない単語に小首を傾げる。
広いと言ったら、航太郎さんがとっていた部屋もかなり広かったけど……それ以上ってこと?
いや、だからなんだっていうんだ。
この人たちは何をしたいんだろう?
私と遊んでも面白いことはないと思うのに…。

「あの…私戻らなきゃ」

早く航太郎さんのところに行かないと、黙って他のお店に行ったことがバレてしまう。
そしたら面倒なことになりそうなのでそれは避けたい。
失礼しますと頭を下げて立ち去ろうとすると、途端にがしりと腕が掴まれた。

「逃げないでくれる? ひとりなんだろ、大人しく着いてこいよ」

力強く掴まれた腕が痛い。
口調も雰囲気もさっきとはまるで違うので、心臓がどくんと嫌な音を立てた。
どうしよう。どうするべき?
走って逃げたら騒ぎになりそうだし……こ、航太郎さん! 助けて!
心の中で彼の名前を呼ぶ。
私はひとりできたんじゃない。航太郎さんと二人できたんだ。

男性ふたりを見上げて、そう言ってやろうと口を開きかけた時、すっと隣に人の気配を感じた。
それが誰だかすぐにわかり、助かった…と息をついたのも束の間。
航太郎さんの周りの空気が驚くほどにぴりついているのがビシビシ伝わってくる。
航太郎さん…怒ってる…?
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