お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
「うわぁ……昨日の海も綺麗だったけど、ここも素敵…」
「ここはカップルに人気なんだよ。 俺たちにぴったりだよね」
航太郎さんの言葉に頬がかあっと熱くなる。
カップル…夫婦…デート……キス…そういう系の単語に、どうしても過剰反応してしまう。
聞いただけで昨晩のことが途端に脳裏に浮かび、航太郎さんに熱く迫られた時のことを思い出すからだ。
はぁ。初体験が、こんな形で訪れるなんて。
恋人でも、夫婦でもないこの人と、私は昨日体を重ねてしまった。
航太郎さんは朝起きてから、普通だ。
まるで何もなかったかのように振る舞う彼に、私はますます恥ずかしくなる。
昨日のことが頭から離れなくて、今日の夜はどうなんだろうとか、嫌じゃなかったなあとか、口調は激しめだけど、手つきは優しかったな……とか。
色々考えてしまうのは私だけ?
航太郎さんにとって、昨日みたいなことは大したことないの?
私にはわからない。
好きだとか、愛を囁かれたわけでもないのに、ただ抱かれるって、どんな意味があるんだろう。
ひとり考えていると、航太郎さんが私を呼んでいるのに気がついた。
このビーチではカヤックに乗ることができるらしく、彼はそれに誘ってくる。
手招きをする彼の懐っこい笑顔に、私もふふっと笑ってしまう。
まあ、いいや。今は楽しもう。
今日のメインは海水浴というより、海周辺の観光なので私服だけど、航太郎さんは、昨日私が内緒で買った水着に喜んでくれた。
『翠が俺のことだけを考えて選んでくれたと思うと、泣けてくるよ』
なんて、本当に涙ぐみながら言うのだから、いえ、即決でした、とは言わないでおいた。
明日はその水着を着て、ガッツリ泳ぐ予定だ。
新婚旅行はまだ続く。
航太郎さんは、きっと本気で私と結婚するつもりだ。
男女の関係を持ってしまった今、なんの後腐れもなく姉と交代していいのだろうか。
私がそう思うのを見越していた気がする。
航太郎さんは、にこにこと笑っている内側に、策士で腹黒い本性なるものを隠していたに違いない。
末恐ろしい人と出会ってしまったと思ったのだった。