お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
姉の身代わり……。ただでさえ聞こえの良くないレッテルを貼られている女が御曹司の相手で、本当に大丈夫なの?
ていうか、このことは先方はご存知なのかしら。
突然、見た目も中身も聞いてたのと違うのが来たら、それこそお怒りになるのでは?
はぁ。そういうことも考えずに勢いで決めちゃうところ、私のダメなところだ。
けれど、何はともあれもう会場に着いてしまったのだ。
ただいま姉の着る予定だった華やかな着物を着付けられている。
こんなの、私には似合わない。
悶々としているうちに、着付けが終わっていた。
ヘアセットとメイクも施され、母に手を引かれて大きな鏡の前に立つ。
そこに映っているのは……
「……だれ………」
最早原型を留めていないレベルの私がいた。
プロの手にかかれば、私でさえもこうなってしまうのか……。
「綺麗よ、翠」
母が静かに呟いた。
確かに、綺麗だ。でも多分、私を知る人に写真を撮って見せても、私だと分かってくれる人はいない……。
「そろそろ行きましょう」
母がぽけっとしている私を促す。
頷いて、長い廊下を歩き出した。
やがて本日の会場となる部屋の前で立ち止まると、大きく一呼吸。
どうか、無事に終えられますように――
ぎゅっと閉じていた瞳をゆっくりと開けると、畳部屋の中央に設置されたテーブルと椅子。
そこに美しい振る舞いの男性がいた。
視線がその人を捉えて逸らせない。
厳しめな印象を持たせる、きりりとした眉、くっきり二重の大きな濃いブラウンの瞳、それと同じ色の髪は綺麗にまとめられている。
私は今朝渡された彼の情報を思い出す。
大手企業、三間グループの御曹司で、現在は本社不動産部門の営業部部長としてトップの成績を誇る。
圧倒的なオーラを放つこの方が、私のお相手…ということだ。