お見合い婚で一途な愛を ~身代わり妻のはずが、御曹司の溺愛が止まりません!~
私は慣れない着物でおぼつかない足取りなのに加え、極度の緊張状態。
かっちんこっちんの私を、母がなんとか座らせた。
向かいに座る方々の表情が真顔に近いので、気が遠くなりそうだ。

こ、この空気で、一体どうやって誰が始めるの――なんて考えていた時だ。


「三間航太郎(みま こうたろう)と申します。 葦原翠(あしはら みどり)さん。 少し二人で話しませんか」

姉の名前ではなく私の名前を呼んだ、三間航太郎という男。
彼は、あとは若いふたりでというお約束の言葉も待たず、私を場外に連れ出そうとした。
困惑気味の両親とはうってかわって、三間家のほうはにっこり笑顔。

「航太郎、翠さんに迷惑かけるんじゃないぞ」

年配の黒ひげの男性…かつて不動産王と呼ばれた、三間航太郎のお父上が言う。隣で奥様も満面の笑みだ。

「わかっています。 さあ、行きましょう」

三間航太郎は立ち上がり、スタスタとこちらへやってくると、私に右手を差し出した。

え、え? なになになに? 今日って顔合わせじゃなかったっけ。
なんであなたはそんなに楽しそうなの?

きりっとした眉はふにゃんと垂れ下がりそうな勢いで、目を細めて『さあ』と微笑む。

「み、翠、行きなさい」

父も母も戸惑っているが、相手の誘いに乗れという。
私は差し出された右手と三間航太郎の顔面を交互に見て、それから恐る恐る手を伸ばした。
手と手が触れ合うやいなや、彼はさらに表情を緩め、立ち上がろうとする私をくいっと引っ張りあげた。

私と並ぶと、彼の身長の高さが際立つ。
180センチはあるだろう背に、スーツを着ていてもわかる引き締まった胴体。
スラリと長くて細い足まで全部、どこかのモデルみたいだ。
おまけに顔面偏差値まで異様に高いときた。
お姉ちゃん……この人から逃げるとか、何事?

そのままスマートにエスコートされて部屋を出ると、今しがた通ってきた廊下を進みだす。
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