運命の推し
第1話

しんみりした食卓





県内でも大きな病院。

ここに来ると、亡くなったお父さんを思い出してしまう。

「お父さん」といっても、私の父親のことじゃなくて。


私の夫の勝也(かつや)さんのことだ。


子どもが産まれてから、今でもずっと「お父さん」と呼んでしまう。


「……もう20年も経つのね」


トイレの鏡にうつる自分を眺める。


ずいぶんシミやシワが増えた。

白髪の髪の毛をぼんやり見ていると、
「歳を取ったわね」
と、鏡に向かって呟いた。






「では、ご自分のお名前を言ってください」

診察室。

高村(たかむら)先生がゆっくりと言った。

幸村笑子(ゆきむらえみこ)です」

私は言われたとおり、自分の氏名を伝える。

高村先生はカルテの氏名を見た。

伝えた氏名と一致していることを確認しているみたい。


「幸村さん、今日は検査結果をお伝えしたいのですが……」

高村先生はパソコンの画面に視線を移した。


高村先生って、孫の香奈子(かなこ)くらいの年齢かしら。

若いわねぇ。


私は今、関係のないことを考えてしまう。


「……幸村さん?」


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