運命の推し
『お母さんみたいに、この子を育てあげたいの』

『ひとりで?』

私の質問に、香奈子は頷いた。

『あの人は、きっと離婚しないと思う』


私は選ばれないの、と言って泣いた香奈子に、私も美加子もかける言葉を失った。




……今でも分からない。

香奈子がどんな思いで、その男と会っていたのか。


きっと私にはこれから先も分からないだろう。




だけど、あの時。

私たちの言うことに耳を貸さなかった香奈子がいたから。

私は、日向と会えた。


こうして「シー・ファンキーズ」について日向とおしゃべりできることも。

香奈子が日向を産んでくれたから。




香奈子に幸せになってほしい。

美加子にだって、良い人がいたならいいのに。



娘や孫に、私は教えたい。

まだまだ人生は長いのよ。

そして、人生は思いもよらないことで溢れているんだから。


私だって。

思いもしなかったわ。


この歳で、こんなに誰かに惹かれるなんて。





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