逃げて、恋して、捕まえた
自由な時間を過ごした大学時代。
蓮斗と付き合っていた時間はとても幸せだった。
毎日のようにデートをして、キスをして、その先も経験した。
付き合っているんだからそれが当たり前だとしか思わなかった。

あの頃、私がもう少し周りを見る余裕を持っていたら、少しでもいいから蓮斗のことを疑っていたら、もっと違う未来が待っていたのに。


大学入学の頃から付き合って3年目、私も蓮斗も就職の時期を迎えた。
もともと就職は地元に帰ってこいと言われていた私は、すごく悩んだ。
語学が好きで英語と中国語はほぼ完璧、フランス語とドイツ語も少々の私は東京に残っても就職先がないわけではない。
父さんは地元の公務員にさせたいらしいけれど、実家に帰れば蓮斗とはもう会えなくなる。
そんなジレンマの中にいた。


「ねえ、就職どうしよう」
周りのみんなが就活を始める時期になって、蓮斗に聞いてみた。

私も就活の時期だけれど、それは同学年の蓮斗だって同じはず。
その割に蓮斗から焦りがいっさい感じられないことが不安だった。

「芽衣は東京に残るんだろ?」
「いや、それはまだ・・・」

「残れよ。就職なら俺が紹介するからさあ」
「蓮斗が?」
「知り合いに企業の人事担当者がいてさ、コネが使えるんだ」
「へえー」

そんな話を聞いても、就活も初めてで社会経験もなかった私は仲のいい先輩でもいるのねくらいにしか思っていなかった。
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