逃げて、恋して、捕まえた
今思えば、まともな企業の人事担当者が単に知り合いだからって便宜を図ってくれるはずがない。
よほどの利害関係がなければ、成り立たない関係。
少し考えればわかることなのに、当時の私にはわからなかった。

夏過ぎに、蓮斗の就職が決まった。
就活なんてしていなかったはずなのに、決まったのは有名商社。
全国規模で、上場もしている企業。
私は単純に、蓮斗すごいなあと驚きとともに感心した。

「芽衣、ここの人事担当あてに履歴者を出しておいて」
「え、私?」
「そうだよ、紹介するって言っただろ」

確かに聞いたけれど、本当に紹介してもらえるとは思っていなかった。
びっくりしてる私に相手の連絡先だけ伝える蓮斗。
その時もまだ、私は半信半疑だった。



しかし、履歴書を出し、面接を受け、一か月後。
私にも採用通知が届いた。

「これで東京に残れるな」
「うん、そうね」

決まったのは歴史のある老舗百貨店。
そこの秘書課に採用が決まった。
ちゃんとした企業の秘書課に正式に採用が決まったからには父さんも反対できず、東京に残ることを認めてもらった。
ただ、「会社を辞めるときには帰って来い」それが条件。
当時の私は蓮斗との未来を疑うこともなかったから、「大丈夫よ」と適当に返事をした。
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