逃げて、恋して、捕まえた
「俺のマンションが嫌ならホテルの部屋をとるから、2人で話そう」
「・・・」
「なあ、いいだろう?」

グイッ。
さらに髪を引っ張る力が強くなった。

きっと、私が行くというまで続ける気だわ。
それでも、私は行きたくない。

グ、グィッ。

「ウ、ウゥウー」

もう無理。限界。
髪が抜けるー。

「やめろ」
突然男性の声が聞こえた。

私は痛みのせいで目を開けることもできないけれど、この声は聞き覚えがある。

「何だよ」
一瞬力を緩めて、蓮斗が声の主を見ている。

この時になって、私はやっと目が開けられた。
そこにいたのは、やはり奏多さんだった。

「彼女、嫌がっているじゃないか」
「うるさい、俺とこいつの問題だ。お前には関係ない」

声を荒げ怒鳴り散らす蓮斗に、野次馬の視線が集まる。

「君はどうしたいの?」
黙っている私に、奏多さんが聞いてきた。

「私には話すことはありません。会いたくもないし、同じ空気を吸うのも嫌」
珍しく感情に任せて言ってしまった。

「ということだ。これ以上暴力を振るうなら、警察を呼ぶが?」
奏多さんは携帯をちらつかせて蓮斗を脅している。

しばらく奏多さんを睨んでいた蓮斗も、さすがに分が悪いとわかったらしい。

「クソッ。芽衣、覚えていろよ」
捨てセリフを吐いて逃げるように消えていった。
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