青、こっち向いて。

「家どこ」

「え?」

「“え?”じゃなくて。送るから」


五分ほど休んで、私の震えもおさまった頃、城田くんの突然の言葉に素っ頓狂な返事をすれば、さも当然のことのように言われて、私の頭の中は“?”だらけ。


「大丈夫だよ、その、申し訳ないし…」

「いや、さすがにあんなことあった後で一人で帰さないだろ。鬼か」


…確かに。

それに、私も一人でこの夜道を帰るのは、まだ怖い。


「えと、じゃあ、お願いします」


恐る恐るお願いする。

城田くんは無表情のまま立ち上がって私の腕を引いた。

あの赤髪不良よりも触れ方は全然優しいのに、どこか力強かった。


「…あんなとこで何してたの」


歩き出した直後、城田くんが隣を歩く私を横目で見ながら尋ねてきて、言葉に詰まる。


「えー…と、ご飯食べて、本読んでたら遅くなっちゃって」

「意外とボーッとしてんだね、久原さんって」


…城田くんは、意外とよく喋る。

それから私はようやく、城田くんがスクールバッグを持っていることに気がついて、唇を尖らせながら聞く。


「城田くんだって、こんな時間に一人で出歩いて、なにしてたの」


一瞬、私をチラリと見た城田くんは、すぐに前を向いて「べつに」と呟いた


「本屋寄ってただけ」

「あんな時間に一人でいるの、城田くんこそ危ないよ」


私のこと、叱るように諭してたけど、自分だって同じじゃない、男の子だからって絡まれても安全ってわけでもないのに。


「そーだね」


面倒くさい正義感振りかざした私の言葉なんて、てっきり無視されると思ってたのに、返事があったことに驚く。


城田くんには、いつも驚かされてばかりな気がする。


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