青、こっち向いて。


「え、あっちゃん?!」


たまちゃんが驚いた声をあげるけど、私は必死で走る。

階段を駆け降りて、玄関で乱雑に上靴を脱いで、ローファーに履き替える。


玄関を出て、校庭に出たところで、彼を見つけた。

もう門のほうへ歩みを進めている。


少し遠くにいる彼に聞こえるよう、精一杯声を張り上げた


「しっ、城田くんっ!」


なんだ?と他の生徒が振り返る中、城田くんも立ち止まってゆっくりこっちを振り返る。


顔はよく見えないけど、たぶん驚いたんだと思う、ゆっくりこっちに戻ってくる城田くんが見えて、ほっと胸を撫で下ろす。

正直、久しぶりに階段を駆け降りて息切れがすごい…!


「あの、城田くん、先生呼んでるよ」


ゼェゼェと息を切らしながら伝えると、城田くんはいつもの無表情のまま頭を小さく下げた


「あぁ、どうも」


たった二言交わしただけなのに、ぎゅっと締め付けられる心臓に、余計に息が苦しくなる。


ひそひそと話す声が聞こえたけど、そんなの私はちっとも気にならなかった。


「…メッセージ、送ればよかったんじゃないの」


去り際にぼそっと呟いた城田くんに、目を丸くしてハッと口元をおさえる。


「たっ、確かに…」


「久原さんって抜けてんね」


意地悪な顔して言った城田くんに、目を奪われる。


あぁ、どうしよう、

私、本当にこの人が好きだ



ぴょこって跳ねた赤い癖毛も、ミステリアスな黒い瞳も、少しだけ優しさを孕んだ声も、突き放すような冷たい声も



「また、明日ねっ…!」


返事はなかった。

振り返ることもなかった。


だけど、耳の奥で城田くんの低い声がリフレインする。



それだけで、私の心は満たされていた


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