愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 出来合いの総菜を出していたわけじゃない。
 包丁がまな板を叩く音も聞いているし。冷蔵庫の水を取りに行った時など、実際に彼女が料理をしているのを目にしている。

 そして、星光が作ってくれる食事は何を食べてもうまかった。

「出しゃばるわけでもないし、俺は羨ましいけどな。あんな高嶺の花と結婚できるお前が」

 高嶺の花、か。

「でもあれだな。完璧な嫁よりも、どっちかっていうと心羽ちゃんみたいな子と一緒にいるほうがホッとするんだろう? お前は」

 女王様のように毅然とした星光。
 いつも笑顔で明るく、ふわふわと柔らかい印象の五月心羽。
 比べようがないくらいふたりはタイプが違う。

「べつに俺は……」
 女性として五月に惹かれているわけじゃない。
 それは本当だが。

 いや、透の言う通りだ。はっきり言えば俺は星光を好きじゃなかった。というか、もともと良い印象がなかった。


 ただ、どうしてかと言われれば……。わからない。

 俺はいったい星光の何を嫌っていたんだ?
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