愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 用意済みと気づきながらそう言った俺の意図を感じ取ったのか、彼女はそうですかと言ったきり、次の日からはキッチンから何の香りもしなくなった。

 そういえば、彼女の朝食はどうしていたんだろう。
 俺に気を使って、俺が出掛けてから何か食べていたのか?

「なあ透、お前知ってるだろ。俺と五月は本当に何にもないぞ」
 罪悪感からか、つい言い訳に力が入った。

「はいはい、俺は信じるよ。だけど、秘書課の女の子が言ってたぞ。専務と五月さんは何かあるんですか?って」

 あっという間にサンドイッチを平らげた透は、ティッシュを手に取り、肩をすくめる。
「綾星が言う事実と、周りから見える景色は違うかもしれないってこと、わかる?」

「わかった。気をつける」

「それで? 何を考え込んでいるんだ?」
「なあ透。お前から見て、星光はどう見える?」

「ん? そうだなぁ。美人だし頭はいいし、料理も上手い。理想的な五條綾星の妻?」

 透は何度もマンションに来ている。

 仕事の話が長引くと星光は食事の用意をしてくれた。
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