愛しているので離婚してください～御曹司は政略妻への情欲を鎮められない～
　フジ子さんと他の家政婦さんがコーヒーを並べていく。ソーサーには私が持ってきたチョコレートが添えられていた。

「この度は私の不徳の致すところでこのようなことになり申し訳ございません」

　憮然とした父も兄も何も言わない。
　枕詞のような挨拶に返す言葉もないのだろうけれど。

「五月心羽という女が原因か」と兄が言った。

　えっ？

「い、いや、それは誤解です」
　綾星さんは激しく動揺している。

　まさか兄からその名前を聞くとは。私も動揺してる。
　でも……。

　やっぱり彼女とはそういう関係だったのかとなんだか力が抜ける。密かにため息をつきながら、ふわふわした綿飴のような彼女のイメージを思い起こした。

　かわいらしい彼女。私とは正反対の女性。
　憮然とした兄はポケットからボイスレコーダーを取り出してスイッチを押す。

　この場の会話を録音するつもりなのかと思っていると、雑音と共に女性の声が聞こえてきた。

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