愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「彼は私に何かを強いることはありませんでしたし、仕事に真面目に取り組んで」
「夫としてどうだったんだ」と、言葉を遮られた。

 困った。やはり簡単には納得してくれそうもない。

「私とは合いませんでしたけれど、悪い人ではないので」

 どうか彼を責めないでほしい。
 彼の気持ちはよくわからないけれど、プライドの高いあの人が、走ってタクシーを追いかけてくれた。

 あの姿に私は溜飲を下げた。
 鳩尾を殴ったし、もう十分。

「お父さまお願い、穏便に終わらせたいの」
 と、その時玄関のベルが鳴った。

「五條を呼んだ」
「えっ、綾星さんを? 綾星さんだけですか?」

 まさかご両親まで?

「ああ、あいつだけだ。言い分を聞こうじゃないか」

 とりあえずホッとしたところに、フジ子さんに案内されて綾星さんが入ってくる。


 緊張しているのか、彼は顔色が悪い。この前よりも更に弱っているようにも見える。

「ご無沙汰しております」

「まあ座りなさい」

 綾星さんは視線で私に挨拶をして、頭を下げてから腰を沈めた。
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