愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
『頼む星光、もう一度俺にチャンスをくれないか』

 その甲斐あって、顔を上げた彼女は俺とふたりきりで話をさせてくれと言ってくれた。

 この家の中では落ち着かないでしょうからと、俺を気遣ってくれた星光の優しさに今更気づくような俺は、本当はそんな資格はないんだろう。

 でも星光はまだ俺の妻だ。
 矛盾しているとは自分でも思うが、俺の妻は星光しかいない。せめてその気持ちをわかってもらわなければ、星光にも申し訳がない。

 屋敷から出て、ふたりで近くのカフェまで歩いた。

『父も兄もあんなふうに怖い人です。それに父だっていつ足元を掬われて政界を引退するかわかりません。綾星さん、私と離婚したほうがあなたも幸せになれると思います』
 彼女は淡々とそう言った。

『君の気持ちが聞きたい。花菱の家は別として、君の気持ちを』

 顔を見たくないほど、俺のことが嫌いなのか?

『あなたはなぜ、離婚したくないんですか?』

 質問には答えず、そう聞いてきた。

< 82 / 211 >

この作品をシェア

pagetop