【完】鵠ノ夜[上]

◆ 心変わり、衝動の沙汰








「こいちゃんおかえりーっ。

わ、どうしたの? その紙袋」



「ただいま。レイからお土産だってさ」



彼女が花見を満喫してから、小豆さんにお願いして迎えに来てもらった。

そのあと本邸にある彼女の自室に立ち寄り、先に持って帰ってもらった和菓子を「これ別邸のみんなに」と手渡されたのだ。──ちなみに。



「"レイ"?」



今日は、俺は"出かける"ことしか伝えていない。

つまり、俺がレイに呼び出されたことも言ってないし、もちろん一緒に出かけていたことも知らないだろう。どうせコイツら、別邸から出てないだろうし。



「和菓子。いらないなら俺もらうけど。

芙夏食べる?桜餅と、あとお茶のお饅頭だって」



めざとく呼び名に反応したはとりはスルー。

声をかけてきた芙夏に聞けば、目をキラキラさせながら近寄ってきた。どうやら、和菓子洋菓子に関係なく、芙夏は甘いものなら何でもいいらしい。俺は和菓子しか食べないけど。




「お嬢、今日どっか行ってたの?

……の割に、護衛ナシってめずらしいねえ。ああ、それとも胡粋が護衛で行ってたってこと?」



「いや? 俺はデートしてただけだし」



「もしかして、女泣かせてきた?」



「雪深の頭ん中で俺はどう解釈されてんの。

……泣かせてないしむしろ喜んでくれたよ。まあ、向こうが俺好みにしてくれたからそのお返しだけど」



なんとなく、レイとデートしてた、とは切り出しにくいし。あんまり言いたくもないし。

名前を伏せて話していたら、早速箱を開けて桜餅をもくもく頬張っている芙夏が、顔を上げて「こいちゃん和菓子好きなんだねー」と的はずれなことを口にする。



「……、好きだけど、なんで」



「だってこいちゃん、

今日レイちゃんとデートしてたんでしょー?」



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