【完】鵠ノ夜[上]



前言撤回。純粋さの欠片もない。

何気に一番芙夏が腹黒いんじゃないかとその裏表加減に引いていたら、「ふふっ」と笑う芙夏。天使と悪魔が表裏一体だ。



「……芙夏、レイのこと好きなの?」



「うん? レイちゃんのこと大好きだよー?」



「……そうじゃなくて。

恋愛感情で好きなの?って、聞いてるんだけど」



芙夏と真面目に話をしていたら、裏表ぶりに疲れそうだ。

追加でもらったという和菓子の包み紙を解き、箱を開ける。横から伸びてきた手がお茶のお饅頭を先に取ったかと思うと、芙夏は首を傾げた。



「ぼくがレイちゃんを女の子として好きだったら、何か、問題でもある……?」



「……問題があるっていうか、」




俺の心情的に良くないっていうか。

どうも上手く伝えられそうになくて濁す俺。対して芙夏は、一つ年下であることを忘れそうなほどに平然とした余裕を見せてくる。



「冗談だよー。

たしかにぼく、レイちゃんのこと女の子としても好きだけどー。レイちゃんが好きな人と幸せになれるなら、こいちゃんと付き合ったっていいと思うし」



「……意外と、芙夏が一番大人だよね」



「そうかなぁ。

あ、あれじゃない?ぼく、地元で近所の小さい子たちといっぱい遊んでたからー。一応家柄も有名だったんだけど、あんまり怖がられてなかったんだよねぇ」



「芙夏って、地元大阪だよね?

……喋ってる時、五家全員めちゃくちゃ標準語だけど」



はかったわけでもなく、ただなんとなく全員が標準語だ。

実家では関西弁話すの?と聞いたら、「話すよー」と芙夏。関西弁だとキツく聞こえるから、レイと話すときは特に標準語を意識して話しているらしい。



「こいちゃんは鯊家だから、中部だよねー?

あんまり言っちゃだめかと思って聞かなかったけど、鯊家って、内部対立してたんじゃなかった……?」



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