視線が絡んで、熱になる【完結】
「おはようございます」

活舌はよくない方だ。だから意識して挨拶をした。ざわざわとしているのは早朝から既に仕事にとりかかっている社員がいるからだろう。鬼のような形相をしながらパソコン画面に向かっている男性に、コーヒーカップを手にしてのんびりと椅子に座っている女性など、様々な社員たちの横を通り過ぎて目的の営業一部へ向かう。パーティションで区切られているとはいえ、開放的な職場は社員のコミュニケーションの取りやすさを意識しているように思える。


営業一部の前に到着すると大きく深呼吸をして声を張った。

「おはようございます。藍沢です。よろしくお願いします」

人事部をしていたから、本社営業第一部の異動は琴葉だけだということは既に知っている。完全にアウェイな環境だがそれもすぐに慣れるだろう。
五人の目線が一気に注がれる。軽く頭を下げて、挨拶をする。

「おはようございます」

皆、にこやかに挨拶をしてくれた。内心どぎまぎしていたからほっとした。

「後でマネージャーが来ると思うからその時に詳しく訊くと思うけど、とりあえず席は僕の隣ね。新木涼です。多分、一つ年上だと思う」
「よろしくお願いします」

新木涼はすかさず琴葉に爽やかな笑みを向けてきた。
栗色の艶やかな前髪から覗く二重の綺麗な目は女性のようだと思った。社交的で、威圧感もない。それでいて温和な雰囲気は営業には向いているのだろう。見習おうと心の中で呟く。

新木涼の隣のデスクのパソコンの電源を入れる。鞄から取り出した社員証を首からかけて、慎重に椅子に腰かけた。

< 4 / 190 >

この作品をシェア

pagetop