視線が絡んで、熱になる【完結】
「はぁ…」
営業部は一番“きつい”部署だ。
本社営業部は一部から六部まであり、それぞれがチームのように活動している。
琴葉の配属先は、営業一部だった。

適当に纏めた髪からアホ毛がいくつか出ているのをワックスで直してラウンド眼鏡のブリッジをくいっと指で上げる。
鏡に映る自分は、お世辞にも綺麗とは言えないし化粧気のない女だ。しかし琴葉はこれでいいと納得していた。“あの事”が脳裏を過り、ブラウスから覗く腕が粟立つのを感じ首を横に振った。

グレーのマーメイド型のスカートに白いシンプルなブラウス、それにスカートとお揃いのジャケットを羽織って家を出る。会社には電車利用して十分ほどで到着する。東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅に降り立つと人の流れに乗るように駅改札を出る。
さほど高くはないヒールを鳴らして緊張を落とすように大股で歩く。
駅までは十分もかからないから楽だ。喧騒を掻き分けるようにして人混みに紛れる。


営業部とコーポレートは廊下を挟んで向かい側にそれぞれフロアがある。だから入ったことがないわけではない。深呼吸をしてドアノブを握り、足を踏み入れる。
一部の場所はある程度把握していた。緊張していることを顔には出さないようにしながら、背筋を伸ばし堂々と歩く。


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