視線が絡んで、熱になる【完結】
しかし普段なら図書室かカフェテリアスペースにいる彼女の姿はなかった。
ちょうど雨が降ってきたようで、大学内の廊下からでも聞こえる雨が窓を叩く音が響いていた。
と、前方の自動販売機の前でしゃがみこむ学生を視界に捉えた。
彼女が琴葉だと気づいた柊は急いで駆け寄った。体調でも悪いのかと思ったが、違った。
しゃがみこみ足を抱えるようにしているその背中は震えていた。そして、鼻を啜る音が耳朶を打つ。
一瞬、足が止まる。
しかしすぐに歩みを進め、琴葉の肩に手を置いた。

「大丈夫か」


ビクッと大きく肩を揺らし驚くように顔を上げた彼女と視線が合った。
真っ赤な目は普段よりも大きく見えた。眼鏡からコンタクトに変えたからだろう。
琴葉は柊のことを認識していないようで、「誰…」と小さく呟いた後、さらに唇を震わせて顔を背けた。

「あんな男はやめとけよ」

見たこともない男を、“あんな男”というのはおかしな話だが、噂が本当ならば、いや本当でなくとも柊の方が琴葉を大切にできる自信があった。
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