エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「高性能カメラなら夜でも明確に、はっきりと映るだろうな」

 ぞわっと背筋に得体の知れないものが走り、脚が小刻みに震え始める。きっと顔も血の気が引いているかもしれない。

 ハーキム氏ならやりかねないと、今さら後悔する。

「盗聴もされているかもな」

「そんな……」

 考えれば考えるほど可能性は高まる。

「でも、私と父の会話は日本語だから」

「本当に危機感がないな」

 抱きしめていた体勢から一度体を離した月城さんは、鋭い視線で私を射抜くように見つめる。
「日本語を話せる者を雇えばいいだろう?」

 もう私はぼうぜんとなるばかりだった。月城さんが腕を掴んでいなければくず折れてしまいそうだ。

 一瞬の沈黙が走ったのち、腕を掴んでいない方の手が私の顎を持ち上げ、ふいに月城さんの顔が近づいてきた。

「つ、月城さん?」

 キスされる!

 ギュッと体を固くする私に、顔を近づけた彼は「目を閉じろ。真似だけだ」と告げた。

 月城さんの唇が触れるか触れないかのところで止まる。

 角度的に高層タワーからはキスしているように見えるだろう。

 それでも恥ずかしくて、脚の力が失われる前に後退しようとする私の腰に腕が回った。

「俺は婚約者なんだろう?」

 このままでは暴れる鼓動が月城さんに伝わるのではないかと思うほど、長く感じられる。

「そ、そうですけど……」

「腕を俺の首に回せ」

「月城……さん……」
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