ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「さ、先にお風呂入ってきたら!?私、その間に洗い物しとくしっ」


やばい、今絶対変だった。

声上ずった気しかしない。


「え、けど顔赤いの収まってないし心配だから、俺やるよ」

「いいのっ!大丈夫!なので!」


「ほんとに?」


「ほ、ほんと……っ!」


ううっ、早くお風呂行って!


はずかしい、はずかしい……っ。


ジーッと私を見つめてくる瞳はどこか疑うようなもので、はしたない部分まで見透かされている気がしていたたまれない。


「じゃあ、お言葉に甘えて先に入らせてもらおうかな」


「う、うん。いってらっしゃい」

「なんかあったら遠慮せずに声かけろよ?」


さすがにお風呂中の渚に声かける勇気ないけど……。


「ん、わかった」


とりあえず、うなずいてはおく。


「よし。じゃ、いってくる」


はぁ……なんとか先にお風呂入ってくれそうでよかった。

私に背を向けて浴室に向かう渚にバレないよう、ホッと胸をなで下ろす。


片付けと渚を待ってる間に、心の準備がしたい。


昨日はもう流れでそうなっちゃったからあれだけど、今日は前もってイチャイチャしよう!ってわかってるのが、猛烈にはずかしいし、

先に入ってベッドで待ってるとか緊張でどうにかなりそうだから。


何より1人で興奮してるとか、こんな身勝手ではしたない自分、見せたくない。


「あ」

「ど、どうしたの?」


なにか忘れもの?

浴室へと続くドアの前でピタッととまったかと思うと、なぜかスタスタと私の前まで戻ってきた渚にドキッとする。


「……」

「ど、どうかした?」

「……んーん、なんでも。じゃ、入ってくる」

「え?」


けれどふっと目を細めて笑って、私の頭をポンとしただけで、今度こそ浴室へと続くドアがバタンと閉まる。


結局なにがしたかったの?

もしかして、緊張してるのバレてるとか?


んー、でもそれにしてはなんか、違うような……。


それから1人ポツンとリビングに佇んでいたら、衣擦れとシャワーの音が聞こえてビクッとする。


とにかく今は、片付けと、気持ちの準備、しなくちゃ……。
< 120 / 332 >

この作品をシェア

pagetop