ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


なんて思っていたんだけど。


「……ぎ、」


「むーぎー」


「ひゃっ!?」


「お風呂上がったよ。次どうぞ」


「えっ!?もう上がったの!?」


まだ入ってから10分も経ってないよ!?


耳元で聞こえた声にバッと後ろを振り向けば、白のTシャツに黒のスエットを履いた渚が立っていた。


「男なんてみんなこんなもんだよ。夏だし、シャワーだけだし」


「そ、そう」


「昨日もこれくらいだったけど覚えてない?」


覚えてるわけないっ、そんなの!

昨日と今とじゃわけがちがう。


いくらふつうに服を着ているとはいえ、タオルで髪をふく仕草とか、濡れた髪からのぞく鋭い瞳とか。


昨日はぜんぜん気にならなかったのに、今日は。


「あー……あっつ」


ばか……私の方が暑い、よ……。

あまりの色気に思わず視線をそらす。


なにこれ……私、変態みたいじゃない?


ドッドッド。

心臓の音もうるさいし、頭くらくらしてくるし……っ。


「あ、でもむぎ用にお湯は張ってきたからゆっくり入ってこいよ」


「あ、ありがとう……」


渚の色気でこの部屋全体の温度が絶対上がった気がする。


だめだ……っ。


まだお風呂にも入ってないのに、体中が沸騰してるみたいに熱くてのぼせたみたいで。


今からこんなんじゃ、いろいろもたない。

1回水でも浴びて全身冷ましてこよう……。


そう思ってソファーから立ち上がろうとしたら。


「今夜は満月らしいよ」

「えっ……?」


満月……?

急になんの話?


ふっと笑った渚に首をかしげれば。


「意味わかんない?」

「なんのこと?」

「んー、ならいいや」


なんて、ますますクスクス笑う。


「なに、教えてよ……っ、!?」


私だけわからないなんて、なんかやだ。

ムッとして渚を見上げれば、ソファーの背面に手をついて、グッと耳に唇を寄せられて。


「大丈夫。
あとでじっくり教えてあげるから」

「っ、な……っ」


固まる私の頬をするりとなでて、甘く甘く囁いた。


「ベッドで、待ってる」
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