ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「ふふっ、なんかいつもと逆だね」


「なにが」


「いつも私ばっかり余裕なくて、はずかしいから、こんな渚見れて、すっごくうれしい……」


「ほんと、勘弁して……」


ふいっと顔を背けて片手で顔を覆う。

両手で隠すことだってできるのに、もう片方は私を抱きしめたまま離さないから、いくら照れてたって、やっぱり渚には敵わない。


「渚」


「なに?」


「帰ったら、いっぱいキスしてほしいな……」


「……おまえさ、自分でなにいってるか、わかってる?」

「うん……その……フォークダンスで他の男子と手つなぐかもしれないでしょ?はやくこの体質をせんぶ受け入れたいから」


ダンス練習は明後日からだから。

はやく、はやくこの体質を克服したい。


特訓、してほしい……。


「そっちかよ……」


「え?」


「純粋に俺とキスしたくて、むぎからしてって言ってるのかと思った」


「えっ!?あっ、そ、それは……」


特訓は、もちろんだけど……。

少し不機嫌な声が落ちてきて慌てて首をふる。


「俺とキスするのは特訓だけ?」


「ち、ちがうっ、」


「どう、ちがう?」


「渚を好きだから……」


「うん」


「渚をもっと、肌で感じたいから、キス、してほしい……」


一番は渚にふれてほしいから。


変わっていく。

渚にふれられるたびにどんどん貪欲になっていく自分。

知らなかった。

自分がこんなに欲張りだったんだって。


「はぁ……ったく、」

「っ、ひゃあっ!?」


いっ、いま……!


「ど、どこさわってるの!?」


「んー、どこだと思う?」


「っ、ぅ……」


シャツの上から、ゆっくりゆっくり。

背中、脇腹、腰、太もも。


体のラインを焦らすようにさわられて、ぎゅっと目をつぶる。
< 205 / 332 >

この作品をシェア

pagetop