ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
【渚side】
「おい、渚!」
「なんだよ」
「顔!顔終わってるって!
他の女の子たちビビってるから!」
「……」
それから始まったダンス練習。
1曲だけの簡単なやつだけど、まずは個人練習ってことで、前に立つ生徒会に習って、全員が動く。
けど、俺の頭の中はもちろんそれどころじゃない。
「渚!渚!」
「今度はなんだよ」
「むぎさん、って、なんだよ!?」
「こっちが知りてーわ」
むぎから朝日との話、なぜかむぎさんって呼ばれたことは聞いていた。
もちろん、名字をちゃんと伝えたことも。
自分の彼女がどう呼ばれるか、なんてまで彼氏の俺があれこれ言う権利はない。
けど、
「むぎさん……ね、」
朝日は人の顔と名前を覚えるのが苦手で、それが女子となれば尚のことだって聞いた。
なのにむぎの名前だけはちゃんと覚えてるって、どういうこと?
聞けば自動で会ったときから、むぎさんって呼ばれてるって。
べつに呼び捨てされてるわけじゃないし、名前の呼び方なんて、人それぞれだってわかってる。
けどさ、けど……。
いくらさん付けって言っても、自分の彼女が他の男に下のの名前で呼ばれて気にならないやつなんて、いねーだろ。
「とまあ、とりあえず、こんな感じかな!」
「えー!結構難しい!」
「これをあと3回で覚えるってひどすぎだろ生徒会!」