ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
むぎといるとき以外、だいたい俺の表情筋は動かない。
無表情なんて言われることなんて日常茶飯事。
だからわかる。
自分と同じ無表情のやつの、感情の変化って。
「久遠、久遠」
「なに?森山」
「あれ、やばいんじゃないの?」
「……やばいって?」
「もしかして朝日くん、むぎのこと狙ってるんじゃないの?」
「オレも。朝日が女子の名前よんでるの、はじめて聞いたし」
こそこそっと森山に続いて碧が言う。
俺もだよ。
朝日が女子に優しいのは知ってるし、囲まれて、よく話してるのは見る。
けど、女子の名前が出てくることなんて一切なかった。
「はーい!
じゃあ今日はここまで!お疲れさまでしたー!」
「あ、ありがとう、朝日くん、」
「お役に立てたならよかった」
最初は警戒心むき出しだったむぎだけど、今の時間だけで、朝日に少し心を開き始めてるっぽい。
付き合いが長い碧でさえ、距離が近いと少し戸惑ってるのに。
「久遠」
「渚」
「「まさかの、ライバル出現!?」」
「……」
とりあえず、帰ったらむぎに朝日とのこと、聞くしかない……。