ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
この声……。
「朝日……」
「朝日、くん……」
その声にふっと顔をあげれば、どこか怒ったような顔の朝日くんがそこにいて。
「わるいのは、ぜんぶおれでしょ」
「え……?」
「体調悪いの言わなくてむぎがおれにふれるきっかけを作ったのも、むぎが好きで近づいたのも、ぜんぶぜんぶおれじゃん」
「好きって……」
「久遠にも、むぎも気づいてたと思うけど、むぎのこと、最初会ったときからずっと好きだった」
「朝日くん……」
「むぎには久遠がいるし、伝えるつもりなかったけど、なんなのほんと、ふたりとも。優しすぎでしょ。善人かよ」
「あ、朝日くん?」
「朝日?」
いつものゆっくり、マイペースな朝日くんじゃない。
どこか早口で、ムスッとしたように話す朝日くんに開いた口が塞がらない。
「聞いたらふたり、婚約してるんだって?その間に入ろうとしたおれがぜんぶわるいのに、なんでおれを責めないの。自分が悪いって言って」
それ、は……。
「「朝日、朝日くんだから」」
私と渚の声がかぶった。
「体調わるいの我慢してたのはたしかに良くないかもしれないけど、他になんもしてねーだろ。べつに俺たちの仲、裂こうとしたとかそういうわけでもないし」
「それに朝日くん、私の体質のこと、誰にも言わないでくれてたよね。幼なじみの鳳くんにさえも」
渚も私も、朝日くんが悪いとかそんなこと、思うわけない。
それぞれ自分に思うことがある。
ただ、それだけ。
「はぁ……ほんっと、完敗だよ」
「え?」
「ふたりとも、大バカものだね」
「はあ?なんで急に……てか、おまえそんな話すキャラだっけ?」
「変わったんだよ。むぎのおかげで」
「てかさっきから気になってたんだけど、その呼び方なに?せめて、むぎさん、だろ」
「婚約者だからって、彼女が他人にどう呼ばれるかまで口出すのはどうかと思うけど?むぎはどう?おれによばれるの、いやじゃない?」
「それは、いやじゃない、けど……」
「ほらね」
「1人で納得すんな。
俺は認めてねーからな」