ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
「か、片付け、終わったの?」
「おう。つーか、離れたらだめじゃん」
「え?」
「俺といるときはずっと隣にいて。
こんな広い部屋だけど、いつもむぎのそばにいたいから」
「っ……」
シトラスの香りが鼻をくすぐって、私の背中に張りつくように渚が立ってるのが分かる。
今日からずっと、ふたりきり、なんだよね……。
朝から夜までずっと、渚と……。
今までお互いの部屋を行き来してたときは緊張どころか、リラックスして寝ちゃうくらいだったのに。
心臓はバクバク言ってるし、体が火照って、ぶわっと汗が噴き出してくる。
いくら幼なじみでずっと一緒にいたとはいえ、彼氏で婚約者。
しかも渚の昼間の言葉。
朝から、朝まで、なんて。
ほんと、どうしたらいいの……っ。
「どうした?」
「っ、へっ?な、なんで?」
後ろから顔をのぞき込まれて、声が裏返ってしまう。
こんなの、緊張してるってバレバレ。
「珍しくずっと黙ってるから」
「そ、それは渚もじゃ、」
「んー、そうだな。
俺も、柄にもなく緊張してる」
「な、渚でも緊張とか、するの?」
「あんましないけど、むぎといるときはいつもしてる」
「え……っ、!?」
固まってたら、ふっと笑った渚に鼻がぶつかるくらいまで顔を近づけられて。
「幼なじみとはいえ、大好きな子の前だし緊張するよ。しかもふたりだけの生活なんて、めちゃめちゃ嬉しいけど、自分を抑えられる自信ないし、」
「っ……」
「むぎが今まで以上にかわいく見えてやばいから」
「はっ!?」
「今までももちろん、かわいかったけど、今が1番。ホントどうにかしちゃいそうになる」
「も、もう、やめて……」
クールな表情がはがれて、少し余裕をなくした渚の顔。
見つめてくる目といい、かわいい攻撃といい、ほんと渚のぜんぶが心臓に悪い……。
「やめない。だってふたりきりなんだし。
前にも言ったろ?もう我慢しないよって」
「け、けど、急に来すぎじゃ……」
「ん、それはごめん。
けどむぎも俺と同じで緊張してたんだって思ったら、嬉しくて」
「っ……」