ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「か、片付け、終わったの?」


「おう。つーか、離れたらだめじゃん」


「え?」


「俺といるときはずっと隣にいて。
こんな広い部屋だけど、いつもむぎのそばにいたいから」


「っ……」


シトラスの香りが鼻をくすぐって、私の背中に張りつくように渚が立ってるのが分かる。


今日からずっと、ふたりきり、なんだよね……。

朝から夜までずっと、渚と……。


今までお互いの部屋を行き来してたときは緊張どころか、リラックスして寝ちゃうくらいだったのに。


心臓はバクバク言ってるし、体が火照って、ぶわっと汗が噴き出してくる。


いくら幼なじみでずっと一緒にいたとはいえ、彼氏で婚約者。


しかも渚の昼間の言葉。

朝から、朝まで、なんて。

ほんと、どうしたらいいの……っ。


「どうした?」

「っ、へっ?な、なんで?」


後ろから顔をのぞき込まれて、声が裏返ってしまう。

こんなの、緊張してるってバレバレ。


「珍しくずっと黙ってるから」


「そ、それは渚もじゃ、」


「んー、そうだな。
俺も、柄にもなく緊張してる」


「な、渚でも緊張とか、するの?」


「あんましないけど、むぎといるときはいつもしてる」


「え……っ、!?」


固まってたら、ふっと笑った渚に鼻がぶつかるくらいまで顔を近づけられて。


「幼なじみとはいえ、大好きな子の前だし緊張するよ。しかもふたりだけの生活なんて、めちゃめちゃ嬉しいけど、自分を抑えられる自信ないし、」


「っ……」


「むぎが今まで以上にかわいく見えてやばいから」


「はっ!?」


「今までももちろん、かわいかったけど、今が1番。ホントどうにかしちゃいそうになる」


「も、もう、やめて……」


クールな表情がはがれて、少し余裕をなくした渚の顔。


見つめてくる目といい、かわいい攻撃といい、ほんと渚のぜんぶが心臓に悪い……。


「やめない。だってふたりきりなんだし。
前にも言ったろ?もう我慢しないよって」


「け、けど、急に来すぎじゃ……」


「ん、それはごめん。
けどむぎも俺と同じで緊張してたんだって思ったら、嬉しくて」


「っ……」
< 76 / 332 >

この作品をシェア

pagetop