すべてが始まる夜に
「ほんとだ。うどんと雑炊だ。白石、お前のは? これを半分ずつするってことか?」

鍋の中に入っているうどんは一人前の量だった。
昨日からの俺の熱と体調を考えて、まだそんなに食欲が出てないだろうと思ったのかもしれない。

確かにさっきまで食欲はなかったが、鍋の蓋を開けてこの美味しそうな匂いを嗅いだら急に食欲が出てきた気がした。でも白石が考えた通り、今は半分くらいがちょうどいい量だろう。俺はうどんを入れるお椀を2つ取り出そうと食器棚の扉を開けた。

「部長、それは両方とも部長のです。私のは作ってませんし、もう帰りますので」

後ろから声が聞こえて振り返ると、白石がローテーブルに置いてあった自分の携帯を手に取った。

えっ? 帰る?
思いもよらなかった言葉に少しがっかりした気持ちが胸の中に浮かび上がる。

「なんだ、白石は一緒に食べないのか? わざわざ作ってもらって本当に悪かったな」

「そんなことないです。おうどんも雑炊も簡単なのですぐできますから。それより部長、昨日はあんなに熱が出てたんですから、ちゃんと食べて薬飲んで今日と明日はゆっくり身体を休めてくださいね」

白石は俺を見て微笑むと、失礼しますと言って自分の家へと戻って行った。
< 106 / 395 >

この作品をシェア

pagetop