すべてが始まる夜に
「部長、おはようございます……」

部長の机の前に立って、少し様子を窺うように挨拶をする。顔を上げた部長は、私の顔を見て、「お、おはよう……」と少し戸惑う表情を見せたあと、すぐに微笑んだ。

表情を見る限り、顔色もよさそうで熱も完全に下がっているみたいだ。休日とは違い、男らしいアップバングの髪型に完璧で隙のないスーツ姿に見惚れてしまいそうになる。

「あの、今よろしいですか?」

「んっ? 今? 大丈夫だけど」

部長はキーボードから手を離し、身体ごと私の方に向けた。

「福岡の新店舗の詳細資料をもらったのですが、部長の時間が空いてるときにご確認いただきたいと思いまして……。プレゼン資料も作成しましたので、今週どこかで時間を取っていただくことは可能ですか?」

「福岡の資料、開発企画部からもらったのか? そうだな、今日明日は打ち合わせと会議が入ってるから難しいが、水曜日なら大丈夫そうだ。水曜日でもいいか?」

部長がスマホで自分のスケジュールを確認している。

「大丈夫です。水曜日は何時くらいがよろしいですか?」

「13時半からでもいいか?」

「分かりました。13時半ですね。では会議室予約しておきますので、よろしくお願い致します」

私は部長に頭を下げると、自分の机に戻って行った。
吉村くんが、よかったなと目の前で笑顔を見せる。
その笑顔にありがとうと微笑み返し、私は席に座った。
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