すべてが始まる夜に
あー、緊張した。
私、普通に話せてたかな?
変じゃなかったよね?

さっきの部長との会話を思い出しながら、パソコンの電源を入れる。部長から何か言われるかと構えてしまったけれど、他の社員がいるせいか部長も何も言わずいつも通り対応してくれた。その対応に感謝しながらほっと胸を撫で下ろす。

結局あのとんでもない発言に対してまだ謝ることはできていないけれど、謝るタイミングを逃した私としては、今さらあの話を持ち出すことはできれば避けたいし、もしかしたらもう部長も忘れてくれたのかもしれない──。なんて都合のいいことを考えてみたりする。

そうだ、そんなことより水曜日の13時半から会議室取っておかなきゃ。
それに、開発企画部からもらった資料と先週作ったプレゼン資料ももう一度確認しておかないと。

私はいつもよりも軽やかな気持ちで仕事を始めた。

そして水曜日。
午後からの部長との打ち合わせに向けて資料の最終チェックをしながら、最近のカフェでの売り上げ状況や顧客層を確認していると、隣から若菜ちゃんがプレゼン用の資料を覗き込んできた。

「茉里さん、それって福岡の新店舗の資料ですか?」

「うん、そうなの。今日午後から部長と打ち合わせが入ってて」

「部長と打ち合わせ? 2人でですか?」

若菜ちゃんが驚いたような表情を見せながら笑顔を向ける。

「そうだけど。若菜ちゃんも部長に用事があった? 私、会議室取ってるから、終わったら連絡しよっか? 部長には若菜ちゃんが打ち合わせしたいそうですって伝えておくけど」

「違います。私は部長に用事なんかないです。それよりそんなこと知ったら羨ましがる人たちがいるだろうなって思っただけで」

何を想像しているのかとっても楽しそうな顔をして笑っている。
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