すべてが始まる夜に
「いつもの会社の態度とは違いすぎだよな。なんか白石には情けない姿ばかり見せてるのに、カッコつけて話してたら、何カッコつけてんだよってなるだろ?」

自嘲的な笑いを浮かべる部長に、大きく首を振る。

「そんなことは全然思いませんけど、やっぱり会社だと部長かっこいいし……。でもちょっとびっくりしたと言うか……」

「会社だとということは、やっぱりプライベートはかっこ悪いということだろ?」

ニヤっと意地悪っぽく笑う部長に、「ちっ、違います。そんなこと思ってません!」と私は慌てて否定した。

「それで、この福岡の新店舗だが、外装はどうなってる?」

急に真剣な瞳を向けられ、急いで手に持っていた資料に視線を落とした。

「は、はい。外装は開発企画部から現状のままを使用するようにと聞いています。それがこの土地のオーナーとの契約事項のようです。店名がわかるように看板だけは取り付ける予定ですが……。ですので今回は中のみ改装することになっています」

慌てて答えたせいか、心臓が走った後のようにドクドクと活発な動きを始めている。

「そうか、外装は変更なしか……」

部長はそう言葉を発したまま黙ってしまった。 腕を組み、目を瞑って何か考え込んでいる。 そして大きく息を吐いたあと、パチンと目を開いた。
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