すべてが始まる夜に
「ああ、大丈夫だよ。メールを返信していただけだからな。それより同じ電車だったなら神田で一緒に飯でも食って帰れば良かったな。薬やうどんのお礼もしてなかったし。あの日本橋の蕎麦屋にでも行けばよかったかな?」

部長は一緒に行ったお蕎麦屋さんを気に入ったのか、「あの出汁巻き玉子はもう一回食べたいよな」と笑顔を見せた。

「あそこは美味しいですよね。夜のメニューがあんなに美味しいとは思いませんでした」

「だよな。蕎麦も旨かったしな。………じゃあ、蕎麦は無理だがこの近くで飯でも食って帰るか? それとも先に鍋を返して飯でも食いに行くか?」

そう尋ねてくる部長に、私は小さく首を振った。

「すみません。実は昨日作ったおでんがまだいっぱい残ってて、あれを食べないと……」

「そうか……。じゃあ、お礼はまた今度にして先に鍋を返すとするか」

わかった、と頷く部長と一緒にマンションまで歩いて帰り、オートロックのドアを開けてエレベーターを待つ。先々週から数えると部長とこうしてマンションのエレベーターを待つのは3回目だけど、考えてみるとなんか不思議な気分だ。

「部長、このまま私10階まで上がってもいいですか?」

「ああ、いいけど。なんか悪いな。本当なら借りてる俺が持っていかないといけないのに」

「いえ、大丈夫です。それより部長、夜ごはんはどうされるんですか?」

私はエレベーターを待っている間、ふと気になってしまった。

そう言えば部長は、途中コンビニにも寄らず私と一緒にここまで帰ってきた。先週の様子から、おそらく部長の家の冷蔵庫にはビールとお水くらいしか入っていないだろう。

ということは、もしかしてカップラーメンでも食べるつもりなのだろうか?
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