すべてが始まる夜に
月曜日の朝、会社に出社すると松永部長は席にはいなく、姿が見えなかった。顔を合わせたら何事もなかったように普通に挨拶をしようと決めていたのに、空席を見て拍子抜けしてしまう。

そしていつも早く出社して仕事をしている吉村くんも珍しく姿が見えなかった。そこで私は部長と吉村くんが出張だったことを思い出した。

そっか。
今日は部長と吉村くんは名古屋に出張だったんだ。
ということは、部長と顔を合わすのは明日?

朝からかなり気合いを入れて会社に出社してきたので、「なんだ、いないのか……」という気が抜けたような気持ちと、「この緊張が明日まで続くのか」という気持ちを交互に感じながら席に座る。私は誰も座っていない部長の席に何度か視線を向けたあと、パソコンを開いた。

気持ちを切り替えるように、週末に届いていたメールをチェックして返信し、店舗ごとの売り上げ状況やメニュー別の売り上げを確認していると、おはようございます──と若菜ちゃんが出社してきた。

「若菜ちゃん、おはよう」

「茉里さん、おはようございます。あっ、そっか、今日は吉村さんと部長は出張でしたね」

若菜ちゃんは机の上に鞄を下ろして、フロア全体を見渡すように吉村くんと部長の机を確認している。2人の不在を見てすぐに出張だと思い出すあたり、さすがだ。

「そうだね。私も朝出社して部長も吉村くんもいなくて最初、どうしたんだろうって思っちゃった。すっかり出張のことなんて忘れてて……」

ふふふっと顔を見合わせて笑う。

「茉里さん、今日は部長がいないからあんまり緊張感ないし、精神的に楽ですね」

若菜ちゃんが嬉しそうに自分の席に座ると、パソコンを開き、仕事を始めた。
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