すべてが始まる夜に
午前中の業務が終わり、いつものように葉子と若菜ちゃんと社食でランチをしてフロアに戻り、午後からの仕事に取りかかろうとパソコンのメールをチェックしていると、松永部長からメールが届いていた。

あっ、松永部長からのメールだ!

仕事のメールだとは分かっているけれど、名前を見て心臓がドキン──と大きく反応する。緊張しながらメールを開くと、そこには出張の許可が下りたので、申請を出しておくようにという内容が記載されていた。

なんだ。出張申請か……。

このメールだけでは全然わからないけれど、いつも通りの対応にほっとして小さく息を吐く。
部長は今どんなことを思っているのだろう。
本当は私にメールなんかしたくなかったはずだよね……。

金曜日の夜の、あの避けられた表情がまたしても頭の中に蘇る。
私はそれを振り払うように頭を振ると、部長に言われた通り、出張の申請を始めた。


*
「茉里さん、何かありました?」

出張の申請を終えてひと息ついたところで、隣から若菜ちゃんが話しかけてきた。

「悩みごとですか?」

「えっ? そっ、そんなことないけど……」

部長のことを考えていたのが顔に出ていたのだろうか。
慌てて笑顔を作って首を振る。

「そうですか? それならいいですけど。なんかいつもと違う気がしたので」

若菜ちゃんは私の笑顔に応えるように微笑んだ。
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