すべてが始まる夜に
シートベルト装着のサインが消え、乗客が一斉に立ち上がり始める。私もシートベルトを外し、座席上の収納棚から荷物を取り出そうと立ち上がると、部長が自分の荷物と一緒に私のスーツケースも出してくれていた。

「部長、すみません。ありがとうございます」

スーツケースを受け取ると同時に、部長が「こっち」と自分の前に並ぶようにと指をさす。言われた通り部長の前に並び、振り返ってもう一度「すみません」と頭を下げると、部長は頷きながら腕時計を確認した。

「この様子だと、10時15分くらいには新店舗予定地の場所に到着できそうだな」

私も自分の腕時計で時刻を確認すると、時計の針は9時37分を指していた。

「予定地の場所ってここからそんなに近いんですか?」

「ああ、ここからタクシーで20分くらいだ。順調にタクシーに乗れればそのくらいに着くだろう」

すっかり仕事の表情になっている部長に、はいと返事をする。これから初めての出張で、初めての福岡で分からないことばかりだけど、私も自分の目で予定地の場所を見てたくさんの人に訪れてもらえるようなカフェを作りたい。

先日プレゼン資料として作成した自分がイメージしているカフェを思い浮かべていると、前に並んでいた人たちが動き始めた。その動きに沿って私も歩いて行き、CAさんに見送られながら飛行機を降りる。

「白石、このままタクシー乗り場に向かうぞ」

部長は私にそう告げると、慣れたように空港内を歩きだした。

幸いにもタクシー乗り場にはあまり人は並んでいなくて、私たちはすぐにタクシーに乗ることができた。部長が運転手さんに新店舗予定地の場所を告げ、タクシーが動き始める。初めて見る福岡の街は新鮮で、私はタクシーに乗っている間中、ずっと窓から見える景色を眺めていた。

途中少し渋滞はあったものの、部長が言った通り20分ほどで新店舗予定地に到着した。タクシーを降りて、目の前に見える大きな建物を見つめる。

そこは閑静な住宅街の中に建つ倉庫のような建物だった。ここがギャラリーだと言われなければ、大きな倉庫としか思えない。

外観は塀のようなコンクリートの打ちっぱなしで、その前に5台ほど停めることのできる駐車場があり、どうやらコンクリートで囲われている中に今回のカフェとして使用する建物があるようだ。

開発企画部からもらった写真を見て私がイメージしていた建物とは全く違っていた。
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